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東京地方裁判所 昭和51年(行ウ)62号 判決

東京都渋谷区宇田川町二二番二号

原告

株式会社渋谷西村総本店

右代表者代表取締役

西村敏男

右訴訟代理人弁護士

小林辰重

東京都千代田区霞ヶ関三丁目一番一号

被告

国税不服審判所長

岡田辰雄

右訴訟代理人弁護士

杉浦栄一

右指定代理人

高梨鉄男

佐藤諭

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告が昭和五一年一月二七日付で左記処分に対する原告の審査請求についてした各却下裁決はいずれも取り消す。

(一) 原告の昭和四三年一一月一日から昭和四四年一〇月三一日までの事業年度の法人税につき、渋谷税務署長が昭和四六年六月三〇日付でした更正処分

(二) 原告の昭和四四年一一月一日から昭和四五年一〇月三一日までの事業年度の法人税につき、同税務署長が同日付でした更正処分

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、渋谷税務署長が昭和四六年六月三〇日付でした原告の昭和四四事業年度(昭和四三年一一月一日から同四四年一〇月三一日まで)及び昭和四五事業年度(昭和四四年一一月一日から同四五年一〇月三一日まで)の法人税についての各更正処分につき、昭和五〇年六月九日渋谷税務署長に対し異議申立てをしたところ、同署長は同年八月二二日異議申立期間を徒過しているとしてこれを却下したので、さらに同年九月一一日被告に対し審査請求をしたが、被告は昭和五一年一月二七日適法な異議申立てを経ていないとして右審査請求をいずれも却下する旨の裁決をした。

2  しかしながら、被告のした本件各裁決は次の理由により違法であるから取り消されるべきである。

(一) 原告が異議申立期間を徒過したことには、次のとおり正当な理由があつたから、原告の異議申立てを却下した渋谷税務署長の決定は不適法であり、したがつて、審査請求の関係では適法な異議申立てを経たものというべきである。

すなわち、原告が本件各事業年度の法人税についていわゆる白色申告をなしたのは、渋谷税務署長の昭和四四年一一月二七日付青色申告承認取消処分があつたためであり、原告自身が青色申告を取りやめたわけではない。しかるところ、昭和四八年一一月二八日、東京地方裁判所において右処分を取り消すべき旨の判決(同庁昭和四六年(行ウ)第一八〇号、第二一九号事件)がなされ、青色申告承認取消処分の違法が明らかとなつたのであるから、渋谷税務署長としては右取消処分の結果として発生している白色申告として更正されたという原告の不利益を自ら除去すべき義務があるのであり、かかる不利益が存在する限り不服申立期間に関係なく異議申立てをなし得ると解すべきで、このことは国税通則法七七条四項所定の正当な理由に該当する。なお、原告は前記のとおり青色申告承認取消処分の公定性を尊重し、白色申告をしたため、本件各更正処分の当時においては理由附記のないことを理由にこれを争うことができなかつたのであり、このような場合には国税通則法七七条一項ないし三項の適用はない。

(二) 国税通則法七五条四項によると、青色申告者は更正処分に対し当該税務署長に対する異議申立権と被告に対する審査請求権とを選択的に有しているところ、原告は青色申告法人であり、審査請求の対象は更正処分であるから、被告は、異議申立て却下により異議決定を経ていないとして直ちに却下するのではなく、右条項により審査請求があつたものとして審理し裁決すべきである。なお、申立期間については(一)で述べたように正当な理由がある。

3  よつて、原告は、被告のした請求の趣旨記載の却下裁決の取消しを求めるため本訴に及んだ次第である。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1は認める。

2  同2(一)のうち、原告が本件各事業年度の法人税について、いわゆる白色申告をしたこと、渋谷税務署長が昭和四四年一一月二七日付で青色申告承認取消処分をしたこと、昭和四八年一一月二八日東京地方裁判所において右処分を取消す旨の判決がされたことは認めるが、その余は争う。

同2(二)は争う。

三  被告の主張

1  被告が、本件審査請求について審査したところ、渋谷税務署長は、昭和四六年六月三〇日本件各更正にかかる通知書を簡易書留郵便をもつて送達に付し、同年七月一日原告に送達されていること、また、原告の本件各更正に対する異議申立ては、原告が右通知を受けてから約四年を経過してなされており、国税通則法七七条一項の不服申立期間を徒過したものであることが明らかとなつた。しかも、原告が右不服申立期間内に異議申立てをしなかつたことについて、原告には同条三項に定める天災その他やむを得ない理由に該当する事実があつたことを認めることはできなかつた。

このように原告の異議申立てが不適法なものであつたため本件審査請求もまた国税通則法七五条三項の規定により不適法であるから、被告はこれを却下する旨の裁決をしたのであつて、本件各裁決には何ら違法はない。

2  原告は、本件各更正に対する不服申立てについては、国税通則法七七条四項ただし書に定める正当な理由があるから、右不服申立ては許されると主張する。しかしながら、同法七七条一項は、不服申立期間を処分があつたことを知つた日(処分にかかる通知を受けた場合には、その受けた日)の翌日から起算して二月以内と定めており、同条項の規定が適用される場合には同条四項の規定の適用の余地はないと解される。そして原告が本件各更正にかかる通知書の送達を受けたことは既に述べたとおりであるから、その不服申立期間は国税通則法七七条一項の定めるところによることとなり、したがつて、同条四項ただし書にいう「正当な理由」があることを前提とした原告の主張は失当である。

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

そこで、本件裁決の適否について判断するに、先ず、本件各更正処分の通知書が昭和四六年七月一日原告方に送達されたことについては、原告もこれを明らかに争わないので自白したものとみなされる。

そして、国税通則法七七条一項によれば、更正処分に対する異議申立ては、処分に係る通知を受けた日の翌日から起算して二月以内にしなければならないのであるから、原告において昭和五〇年六月九日した本件各更正処分に対する異議申立てが右不服申立期間を徒過したものであることは明らかである。

しかるに、この点につき原告は、本件の場合には同法七七条一項の適用はなく、同条四項の規定により一年の申立期間を徒過したことについて正当な理由があるか否かを問題とすべきである旨主張する。しかしながら、同条四項は、処分の知、不知に拘らず処分のあつた日の翌日から起算して一年を経過した場合には正当な理由のない限り不服申立てをすることができない旨定めた規定であるから、本件のように原告が処分当時その通知を受けていた場合の異議申立期間については同条一、三項の定めるところによるのであつて、同条四項の適用される余地はないといわざるを得ないのである。

そうすると、更に原告が正当な理由として主張するような事情が同法七七条三項にいう、法所定の期間内に不服申立てをしなかつたことについてやむを得ない理由があるときに当たるか否かについて検討されなければならない。

国税通則法七七条三項にいう不服申立期間徒過についての「やむを得ない理由があるとき」とは、同条項がその事由として「天災その他」を例示していること、右不服申立期間を設けた趣旨が租税法律関係の早期確定を図るという点にあることに照らすと、単に不服申立人の主観的な事情があるだけでは足りず、申立人が不服申立てをしようとしても、その責めに帰すべからざる事由により、これをなすことが不可能と認められるような客観的な事情の存在する場合を意味するものと解するのが相当である。ところが、本件において原告が主張する事情は何ら不服申立ての客観的障害となるものとはいえないのであつて、右「やむを得ない理由があるとき」に当たるということはできない。

なお、原告は白色申告として更正されたという不利益が存在する限り、所定の不服申立期間に関係なく不服申立てをなし得る旨主張するが、そのように解すべき法令上の根拠はなく、右は独自の見解であつて採用することはできない。

次に、原告は、本件審査請求を国税通則法七五条四項一号によるものとして審理、裁決すべきである旨主張する。しかしながら、仮に、本件審査請求をそのように解することができるとしても、本件審査請求が同法七七条一項所定の不服申立期間を徒過したものであることは明らかであつて、しかも右徒過につきやむを得ない理由があるときに当たる事情の認められないことは既に述べたとおりである。

以上のとおりであるから、原告の審査請求を却下した本件各裁決は適法である。

二  よつて、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長 裁判官 山下薫 裁判官 伊藤久夫 裁判官 高橋利文)

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